影武者
監督:黒沢明 出演:仲代達也ほか
天正元年。武田信玄は野田城攻めの夜、鉄砲で狙撃され重傷を負ってしまった。彼は苦しい息の下から遺言を伝えた。
「我死すとも、3年は喪を秘し、ゆめゆめ動くな」―。かくして彼の死を隠すべく信玄の”影武者”が生まれた。日常生活でも信玄になりきる”影”。だが家康はいまだ定かでない信玄の生死を確かめるべく陽動作戦に打って出た。
決然と結論を下す”影”。「動くな、山は動かぬぞ」。だがこの名もない”影”への服従を不服とする勝頼は独断で兵を動かしてしまう。この難局を機知により切り抜けた”影”だったが、やがてその正体が露見した。 主役は勝新太郎だった?
この映画に登場する武田信玄と影武者の一人二役は、最初から勝新太郎のために書かれたものだといっていい。
- 威厳あふれる信玄と、その前で信玄に向かって悪態をつく影武者となる男
- 信玄が近隣大名たちの造反に腹を立てたときに見せる感情の爆発と、重臣にいさめられた直後に見せる風流人としての穏やかな表情
- 屋敷の中で身の回りの世話をする若い侍たちに取り囲まれ、卑しい身分の元盗賊から、武田信玄その人へと一瞬で変身してみせる場面
こうした人間の二面性は、勝新太郎の得意芸だった。しかし、勝新太郎は撮影開始直後に主役を降板させられた。「監督は二人要らない」
では一体なぜ、勝新太郎は主役降板となってしまったのか。黒澤明は、次のように説明する。
「カットがどうつながるかは僕の頭にしかない。だからビデオで撮ったって参考にならない。監督が二人もいたんじゃ映画はできないよ。」
つまり、勝新太郎が「影武者」の撮影現場にビデオを持ち込んだのがそもそもの始まりだということらしい。これに対して、勝新太郎は降板3ヶ月後のインタビューでこう答えている。
「オレが謝っちまえばよかったんだが、その時、黒澤さんと目が合っちゃってね。その目が『オレはクロサワだ』という目だったんだ。それでオレも『オレも勝新だ』ということになっちゃったんだ。」
影武者の受賞歴 |
第33回
カンヌ映画祭(1980年)
最高賞(グランプリ)
第23回
ブルーリボン賞(1980年)
作品賞 、主演男優賞(仲代達矢) 第5回
報知映画賞(1980年)
作品賞 、助演男優賞(山崎努) 第35回
毎日映画コンクール(1980年)
日本映画大賞 、監督賞(黒澤明) 、主演男優賞(仲代達矢) |
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必見の価値に変わりなし
撮影直後の主役降板というトラブルもあったが、新たに仲代達矢という役者を得て、「影武者」は素晴らしい作品に仕上がった。
たしかに、勝新太郎がこの役を演じていたらどんな作品に仕上がっていたのだろうという興味は尽きない。もっとすごい傑作になっていたのでは、という声もある。
しかしながら、独特な映像世界、しっかりとした脚本、また巧みな衣装デザインなど他の黒澤作品と比べても遜色ない出来映えであることは間違いない。
なにより、右にあげた受賞歴からも必見の価値があることは明かだ。
(注)個人的・主観的な感想
もともとは勝新太郎が主役だったなんて知らなかった。
だから、仲代達矢演ずる「影武者」を観て、文句なしにものすごく面白かった。
そして同時に、これでよかったのかも、と思う。
もしもあのまま勝新太郎が主役として撮影を続行していたら、どうなっただろう。
やっぱり結局はどこかで衝突することになると思う。
もしそれが、撮影日程の真っ最中で、代役を立てることが出来ない状況になっていたら、、、。
おそらく、「影武者」が日の当たる場所に出てくることはなかっただろう。
そう思うと、主役交代が撮影開始直後だったのは不幸中の幸いかもしれない。
そして何より、このサイトをつくる動機になったのがこの映画だといえば、その素晴らしさが分かってもらえるだろうか。
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